実践的な組織づくり戦略や組織改善プラットフォーム「wevox」の活用方法を紹介する「活用事例シリーズ」。今回は、「新たな価値を共創する世界的なテクノロジー企業群になる」
というビジョンのもとに、 データとテクノロジーを強みにあらゆる分野での事業拡大・ 新規事業の創出を目指すSupershipホールディングス株式 会社のケースを紹介します。「wevox」の導入した結果、離職率が改善したという同社に、運用の仕方や効果的な活用法について伺いました。
退職につながりかねない「辛いな」をいかに早く見つけるか
−「wevox」を導入するまでの経緯を教えてください
Supershipグループは、いろんな会社を買収・合併しながら拡大してきています。合併するのは数十人から大きくても100人程度の会社ばかりなのですが、その規模の会社で働く人たちって、社長のことが好きで、社長が作る会社の雰囲気が好きで、サービスが好きだという場合がほとんどなんです。でも、合併するとそれらが全部変わってしまいます。ただ、Supershipグループにはネガティブな要素が少なく、給料が急激に下がるとか、裁量権がなくなるとか、働きにくいみたいなことがないので、いったんは打ち解けてはいただけます。とはいっても、それがどこかのタイミングでずれ始めてしまうと、突然「辞めたい」となってしまうケースがあるんですよね。
−そうやって拡大してきた企業ならではの課題かもしれませんね。
そうなんです。だから、どのタイミングで「辛いな」と思い始めるのかを事前に知っておけると、早めに手が打てるのではないかと思いました。そのために、まずはエンゲージメントを上げたいと思ったのが導入理由の1つ目です。
もう1つは、「Great Place to Work®」の上位を取ることを経営目標の1つにし、働きがいのある企業を目指そうという取り組みが進んでいることです。センター試験に向けて定期的に模試を受けるように、普段から同じような項目で受けられるテストのようなものがあれば、高めていきやすいと考えました。その両方を満たしてくれるのが「wevox」だったのです。
−全社導入までの流れは?
まずは実験的に人事グループに導入し、次は管理部門全体に、という流れで半年かけて管理部門各部から事業部へ導入しました。ただ、私の予定よりはだいぶ早かったんです。というのも、ホールディングスで導入をした段階で、役員陣の方々が「すごくいいものだから早く全社導入しよう」と盛り上がってしまって(笑)。それくらい好評だったということなんですが。
−どこを評価していただけたのか、もう少し教えてもらえますか?
まず、アンケートのウェイトの軽さがちょうどよかったですね。他のツールは入力項目が多かったり、多い割にショットの入力ばかりだったり、逆にショットの入力が軽すぎて何を書いたか忘れちゃう…といった場合も多かったんです。でも「wevox」はそこのバランスがちょうどよかった。言語化・数値化しにくい「働きがい」みたいなものが定期的にサーベイできるのに、答えている側の作業が重くないんですよ。あとは、「Great Place to Work®」に向けた取り組みとも相関できそうだと感じました。
「これは受ける意味があるもの」と理解してもらうためにどうするか
−社員の皆さんの反応を教えてください。
一部の管理職の人たちについては、最初はすごくネガティブだったんです。「うちのグループはうまくいっているから必要ない」「誰も答えないよ」とか、いろいろ言われたんですね。でも、いざやってみたら面白いくらい言った通りにならなかったんです。
−それは、ちょっと笑えないですね…。
実際にそういうことが起きちゃったからこそ、今はほとんどの方が前向きに取り組んでいただいています。
−その状況から、どう運用したんですか?
スコアが高いチームや、うまく組織運営につなげられた数名の管理職の方が、結果的にすごく目立つ形になったんです。一番大きかったのは、スコアが大きく上がった事例をグッドプラクティスとして共有したこと。結果、「スコアが低いのは、あなたたちが何も取り組もうとしていないからだ」という話ができるようになりました。その途端ですね、どの部署もやる気が出始めたんです。今は全体のスコアが上がってきています。
メンバー層についても、特に文句など出ることなく、順調に導入を進められましたね。
−何か工夫されたことはあるのですか?
朝会での情報公開ですね。全体のスコアや推移について、どの部署がどんなふうにうまくいっているかをクオーターごとに全部共有するんです。さらに、グッドプラクティスだけを発表する。そうすると、名前が挙がらなかった部署が「なんでうちは取り上げられなかったんだろう」という雰囲気になり、「だったらうちの部署も頑張ろう」とメンバーたちから盛り上がっていったんです。
−すごく素敵な流れですね…
あとは、フリーコメント欄への対応です。届いた質問には全部、1つずつきちんと答えることにしたんです。ただ、その時に「できる・できない」を答えるのではなく、「これはこういうものです」みたいにちゃんと説明しました。それを繰り返していたら、結果的に満足度がかなり上がったんですよ。
−面白い話ですね。
メンバーが「自分たちは無視されていないな」と感じてくれたんだと分析しています。結果として「これは受ける意味があるな」となったのでしょう。可視化されて取り組みが見えて、満足度が上がると、じゃあまた受けてみようとなる。そういう流れができていると感じています。
離職率を下げるために注目すべき項目とは?
−wevoxの結果を、全部門長に個別にフィードバックしていると聞いたのですが…
そうなんです。毎月1回、全回答の差分を細かくフィードバックする場を設けています。数値の細かい話から始めて、最終的には次回までに取り組むべき課題を3つにまとめるんです。これを20を超える部門で行っています。
−ものすごく大変そうなんですが…
はい。正直、とてもいい運用とは言えませんよね(笑)。でもこれも1つの要因になって、全社的に顕著に結果が出始めているのは確かなんです。まず、ここまでやれば「人事は本気だ」と思ってもらえているはずですから。実際本気ですし、大変は大変なんですが、それはあくまで時間的に大変なだけであって、取り組みとしてはものすごく楽しいことなんですよね。
−やってみて、見えてきたことがあれば教えてください。
フィードバックに対して関心が高い部門長とそうでない部門長がい
−「wevox」を導入後、退職率が下がったと伺ったのですが、詳しく教えてもらえますか?
退職する人がめちゃくちゃ減ったかというとそうではなくて、いるにはいます。ただ、これまでは「サプライズ退職」、つまり、ある時に突然「辞めます」と言ってくるメンバーが多くて。その段階になっていると相当意思を固めた上で勇気を持って伝えにきているため、引き止められないんですね。しかし、もっと早くその人の問題点にシューティングできていたら、早くに対応できたわけじゃないですか。
−まさに最初におっしゃっていた話ですね。
「wevox」によって、それができる環境が実際に整えられたと感じています。結果、退職率は15%くらい改善しました。
具体的には、兆候が見られたら早めに1on1をしたり、チームビルディングのための活動に予算を使ってみたり。また、今のミッションが合っていないのかもしれないと思ったらすぐにアサインメントを変えたり、評価の仕方を少し変えてみたりすることも。おかげで退職のアップダウンをだいぶ抑制できるようになったと感じています。
−その時に、注目している項目はありますか?
部門によって特徴があるので、明確に「これ」とは言えないですね。ただ、例えば3つの項目が同時に下がった時に、普通ならその3つ全部をシューティングしにいきがちですよね。でも私たちはその下がっている3項目の他に、「元々高かったけど下がってしまっている項目」があったら、そっちを重視するんです。そこが上がると、引っ張られて最初の3項目も上がっていくからです。元々強い部分は上司としても上げやすいし、本人たちも上がりやすいじゃないですか。
−なるほど。これは他社でも参考にできそうですね。
例えば「人間関係」が上がるとそれに伴って「やりがい」も上がるとか、「上司の信頼」が上がると「責任感」とか「裁量」が上がる…みたいなことは普通によくありますからね。だから、高いスコアの部分に注目しておくのはいいかもしれません。
−それは、普段からその組織の強みがどこにあるかを知っておかなくてはいけないということですね。
そういうことだと思います。
「wevox」の導入がマネジメント層の教育にもつながった
−他に「wevox」をやって良かったことがあれば教えてください。
「管理職のマネジメントスキルを上げる」みたいな話がよくありますが、そこにもすごく効いたなと思いますね。IT系のベンチャーでは管理職がプレイングマネージャーで自分の仕事を持っている場合が多いじゃないですか。そうなると、管理職然とした仕事が後回しになりがちで、しかも自分自身もそんなに管理されてこなかった人であれば、「それでもいいか」みたいになりがちなんです。
−よくありますね。ただ、組織としてはそれは良くないですよね。
そう。その雰囲気が当たり前になると、いつか組織が崩壊してしまう。でも「wevox」をやることで、組織の状態が数値で突きつけられて、なおかつ人事からも定期的にインプットがある今の状態だと、「やっぱりやんなきゃまずいな」とか「やるといいことがあるな」と気づき始めるんですよ。そのおかげで、結果的にマネジメント層、特にミドル層の教育につながったように感じますね。だっていくら研修をやったところで、急に次の日から変わるかというと難しいわけです。結局は「積み重ね」だと思うと、「wevox」を通じてそれが自然とできるのはありがたいですね。
−社内の雰囲気にも変化はありましたか?
すごくよくなったと思います。特に離職率が上がってくると、雰囲気も悪くなりがちですよね。よく「離職率が15%を超えると毎月誰かしらが辞めている印象になる」と言いますが、実際にそれがなくなったわけです。しかも、逆に離職率が下がってくると、ネガティブ離職の人が本当に目立たなくなるんです。それだけでも雰囲気は全然違いますよね。
グループごとに「自走」できる状態をいかにつくるか
−今後、「wevox」をどう使っていきたいですか?
どこかのタイミングで、今のような人事が全部を並走する運用を変えられたらとは思っています。組織ごとに結果を見て振り返っていけるような「自走」できる状態を作っていきたいですね。1年近くやってみて分かったのは、特にスコアが高いチームほど、結果画面の閲覧回数も多いということ。得られた数値に対する意識が高いんです。もちろん逆も然り。少しでもジブンゴト化していけると、エンゲージメントへの意識向上にもつながると思います。
−自走させるためには、達成感につながるような「変化」が目に見えることは大事かもしれないですね。
そう思います。だからこそ、「ジブンゴト化」が大事だと思います。
あとは、ゆくゆくは管理職の評価に使っていければとも考えています。それも、「総スコアが高いから評価も高い」ではなく、「アップダウンにどれだけ寄与できているか」みたいなところで見ていくのがいいのかなと。今はそんな風に考えていますね。
−最後に、大月さんが理想とする組織像について教えていただけますか?
スコアをある程度伸ばしていくと、その会社に即した組織像が自然とできてくるのかなと。だから、あまり人事が「これが答えだ」みたいなものを持たない方がいいのかなとは思っています。
…という前提がある上でお話しすると、私が理想的だと思っているのは、一人ひとりが「全部自分のせい」と言えるような組織を作ることですね。それはすなわち、全部を「ジブンゴト化」できる組織です。そうやって頑張れる人がいる組織は、絶対に強くなれると思っています。これはあくまで理想です。