実践的な組織づくり戦略や組織改善プラットフォーム「wevox」の活用方法を紹介する「活用事例シリーズ」。今回はアドベンチャー教育サービスの提供と、教育を実施する場所としてのアドベンチャー施設の設計および、施工を行う株式会社プロジェクトアドベンチャージャパンにお話を伺いました。アドベンチャー体験を通じて、「人と人の関係性のハードルを下げる」体験を提供しているという同社。自社の組織内でもお互いが認め合える状況を作り、組織のフラット化を実現するためのwevoxの活用法に迫りました。
全ての情報を全社員に公開することで全員が意思決定できる組織
−まずは事業内容について教えてください。
(茶木)当社は、アメリカに本部があるプロジェクトアドベンチャーという非営利団体からのライセンスを受けて、1995年に始まった会社です。アドベンチャー教育サービスの提供と、教育を実施する場所としてのアドベンチャー施設の設計および、施工をメインに行なっています。安全基準のしっかりとしたアドベンチャー施設の設計や施工は、大手の建設会社が手がけなかったため、自社で建設部門を持っています。さらに、そのノウハウを活用し、日本全国にジップラインなどのアドベンチャーパークを作っています。
(渡部)基本的にクライアントから依頼のあった施設を作って、その後の保守・メンテナンスを行ってきました。これまでに、100を超える施設の設計・施工を行なっています。2017年からは自社で運営まで全て手がける施設を作っています。自社運営施設は「PANZA(パンザ)」という名称で、11月オープン予定の施設を含めて現在4つ。それらを統括するのと新しい施設のスタートアップが私の仕事です。
(太田)私が責任者を任されているのが、2019年4月にオープンした埼玉県にある「PANZA宮沢湖」です。
(茶木)組織としては、1年ほど前までは18名だったのですが、自社運営施設を始めたり、施設数が増えてきたことから、現在は40名程度にまで増えています。実はこの組織の急拡大が、wevox導入のきっかけです。今まで見えていたものが、人が増えた途端に見えにくくなってきたので組織の「見える化」をちゃんと進めようと考えました。
−見えにくくなったことで、何か具体的な課題が生じたのですか?
(茶木)そもそも、プロジェクトアドベンチャージャパン(PAJ)という会社は、私が参画してから情報の透明性を高めることに努力を続けてきた組織です。当社は、代表取締役である私が見られる情報は全て、社員全員も見ることができます。それは経理情報も人事情報 も、MBOや360度フィードバックなどの評価の内容についてもです。ただ、組織が大きくなり、私が見えないだけでなく、他の人も見えにくくなっていた。そんなときにwevoxを紹介され、興味を持ちました。
−wevoxの印象と、決め手が何だったのかを教えていただけますか?
(茶木)私としては、唯一の目的が「見える化」でしたので、スコアを基にしたコンサルティングのようなサービスは一切不要でした。その点、wevoxはシンプルで、こちらの目的に非常に合致していました。アトラエのイベントに参加して話を聞き、「始めてみて違ったらやめればいい」という気持ちで導入を決めました。
−そもそも、全社員にwevoxの全ての情報をオープンにすることにこだわっている理由は何でしょうか?
(茶木)当社では、経営者や一部の人だけが意思決定をする文化をやめていきたいと考えています。それぞれの役割の人が、部分最適ではなく、できるだけ全体を見たうえで、意思決定できる状況を作りたいのです。そのためには、全員が全ての情報に触れられる必要があります。そして、他の情報と同じように、組織の状態もみんなが把握できるようにしておきたいと考えたわけです。
(渡部)最初の導入説明のときから、「wevoxの目的は見える化することだけ。これをもとに経営から何をどうしろとは一切ありません」と社内で広報していましたよね。
(茶木)そうなんです。だから、2月に実施し始めてから半年以上経ちましたが、今も会社としては実施するだけ。「それだけでいいのか?」という議論も出てきていますが、そういう反応はすごく健全だと思うので、それも含めて良かったと思っています。
「会社が何とかしてくれる」という概念が最初からない
−もう少し、導入してみての感想を伺えますか?
(茶木)はっきり言ってしまうと、全社的にスコアが少しずつ下がっていて、まずはそれに危機感を感じているというのが今の正直な気持ちです。
(太田)現場としては、全社的に社員数が増えている以上、最初は「成長痛」はあるだろうなとは思っていました。導入してまだ数カ月なので、数値がどうかという判断よりは、「今はそうだよね」と納得して見ているという感じでしょうか。
(渡部)「PANZA」の施設は沖縄、大阪、岐阜、埼玉と場所がバラバラなので、各現場のスタッフ一人ずつの細かいところまでは状況がわからないのが現状です。Slackやメールなどの文字ベースの情報共有からは、それなりに悩みなんかは何となくわかるのですが、それが全てではありませんよね。いくら日々のコミュニケーションの中で「なんか最近雰囲気悪そうだよね」と思っても、それを深掘りしたり原因解明しようという動きはなかなか起きにくいものです。だからwevoxみたいに数値で可視化でき、なおかつ問題点について話し合いができるきっかけを作れるのはすごくいいなと思いますね。
−何か具体的な動きがあったら教えてください
(渡部)先日あったのは、現場のあるメンバーが企画を提案してくれた際に、僕らが「もっとこうしてみたら?」というようなことを率直に伝えたところ、その反応に対して凹んでしまったということがありました。僕らはすぐにその状況には気づけなくて、実際にスコアが下がったことで「なんでだろう?」と話し合ってみてわかったんです。そこですぐにフォローができ、再度モチベーションを上げることができたので良かったわけですが、意図がなかったとしても、何がどう影響するかはわからないものです。電話会議の中の一言が傷つけてしまうことだってある。そういう見えにくい部分にすぐにフォローできるのは、wevoxの力かなと思っています。
(太田)現場としては、2週間に一度行う全スタッフのチームミーティングで、wevoxの結果を踏まえて皆で意見交換するようにしています。僕自身の考えでは、点数が低くなったら高くしていきたいと思うのが生き物の性だと思っているので、下がった部分について意識的に皆と話すようにしています。そのときには、「上げていくのは皆さんですよ」と伝えるようにはしています。
−みなさんが考えてね、という問いかけですね。
(太田)そうです。何が悪いのかは皆で話し合い、「じゃあ上げていくためにどうしようか?」というアクションについては、僕の方からあれこれ言わないようにしています。
−社内の会話が増えたりといったことはありますか?
(太田)それは間違いないですね。他の施設のマネジャーに聞いても、自分たちの職場について考えるために活用しているという話でした。
(茶木)経営として何か施策を打ち出すことはないというのは導入のときに話しましたが、正直、「現場レベルで何かアクションを起こしてほしいな」という気持ちは若干ですがありました。そういう意味でも、結果的にいい運用ができていると感じています。
(渡部)そもそも最初の導入のときから、数値が悪いから会社がなんとかしてくれよ、という概念が全くないところから僕たちはスタートしているんです。だから、自分たちで考えてみる雰囲気が出てきたのかもしれません。まさに太田が言ったように、職種やステータスは関係なく、下がっていくものを見たときに「このままだとまずい」という意識を持てることはすごく大事ですし、数値の変動に対して何か会話が生まれるのがいいなと思いますね。
受け入れがたい主観を、すんなり腹落ちさせるサーベイ
−導入してから、見えてきた変化はありますか?
(茶木)何かが劇的に変わったというような、目に見えるものはまだないですね。ただ、何かが起きたときに、そこで起きていることが誰かの主観なのか、実際にはそれほどのことは起きてないのか、それとも本当はすごいことが起きているのか、それがわからないということって多々あります。「誰々さんが言っていた」という情報を集めて判断するとしても、どうやってもいろんな主観が入り混じる。一方で、サーベイは主観の塊にも関わらず、その結果に対しては客観的に受け取れるというのがとても大きいと思っています。
−興味深いお話ですね。
(茶木)自分の組織のスコアが悪くなったとして、それを誰かから「雰囲気悪いんじゃない?」と言われたら、誰だって「そんなことはないよ」と反発すると思うんですね。でもwevoxで下がっているのが明らかだと、「ああ、何かが起こっているんだな」と自分でも思うはずなんです。つまり、人の主観は受け入れ難いもので、でもその主観を受け取りやすくするのが、このサーベイのいいところだと思いますね。
(渡部)とにかくみんながすごく正直につけてくれているんです。繁忙期の後に健康面がグンと下がるとか。ああやっぱり、みたいな(笑)。それを僕たちがちゃんと理解したうえで次のステップにつなげることが、正直な点数をどんどん良くすることにつながっているんだろうと感じています。だから、私は決して、スコアが下がっていても嫌なツールだとは思っていないんです。
−導入の仕方が、すごく自社にあったやり方だったのかもしれませんね。
(茶木)それはあるかもしれません。感じているのは、我々の事業との親和性の部分で、wevoxに対して共感できるところは色々あると思っています。例えば、アドベンチャーを用いた教育体験という事業において、「人と人の関係性のハードルを下げる」ことを大事にしています。そして、それは僕たちの組織でも同じで、お互いが認め合える状況を作りたいと思っています。そのためには、情報公開も含め、極力組織のフラット化を進めたいと考えています。「誰かが誰かにやらせる」みたいなことをなくし、お互い最大限に価値観を尊重しあえる組織を作りたいと思っています。
「アドベンチャー体験」を自社の組織づくりにも生かす
−今の茶木さんの話にも通じるものがありますが、みなさんが理想とする組織像について教えてください。
(太田)1つは、家族のように仲がいい組織です。この人が好き、この人と働きたいからここに来たい、というのが理想です。一緒に働く人の存在は、すごく大事ですよね。もう1つは、「隣の仕事は僕の仕事ではない」というような縦割りの組織は絶対に作りたくないんです。みんなでフォローし合える組織を目指しています。
−人間関係をよくするために具体的にやっていることはありますか?
(太田)マネジャーとして心がけているのは、一人ひとりをよく見るようにすることですね。それこそ、髪を切ったとか、メガネを変えたとか、今日の笑顔はいいねとか、そういう小さいことでも会話をするようにしています。メンバーの趣味とか、誕生日とか、家族構成といったことも、全部頭に入っていますね。
(渡部)PANZAのミッションは「アドベンチャー体験をすべての人に」です。一歩踏み出すことで「自分にもできた」と体験として喜びを得たり、自己の成長を感じたり、人との関わりを深めていけるのが、アドベンチャー体験のいいところであり、秘める力だと思います。そんな事業を行う私たちだからこそ、我々自身がもっとアドベンチャー体験をしないといけません。PAJで何かチャレンジをしたい、自分の未知なるところに一歩踏み出したい、みんながそんな風に思って働けたらいいですよね。そして、「僕はこんなアドベンチャーをしている」ということをみんなの前で堂々と言えて、それをみんなが賞賛できる、そんな組織にしていきたいなと思っています。
(茶木)私が経営者として意識していることは、大きく分けて2つ。1つはPAJが持っている「フルバリュー」という価値観です。会社として大事にしているのが、相手の価値観を最大限に尊重しあえること。これを事業プログラムの中でも日々伝えていますし、我々自身も大事にしています。ですから、まずはこれを実践できる組織でいたいなと思います。言うは易しですが、相手のことをフルに認めるためには、どういう環境を作ればいいのかは結構難しいんです。
−情報公開を最大限にしているというのも、そのためでしょうか?
(茶木)そうです。お互いの状況をお互いにわかるようにするためです。認めるといっても、何を認めていいかわからないですよね。だから第一歩として、すべてを見られるようにしておく。そこから、お互いが認め合えるような状況をなるべく作るために、フラットな組織構造を目指しています。
−2つ目は何ですか?
(茶木)これは私自身が大事にしている価値観で、「優先順位」についてです。最も優先すべきは自分の健康。二番目が家族。そして三番目が仕事です。別に仕事なんてどうでもいいと言っているのではなく、自分と家族を大事にしたうえで、仕事でちゃんと成果を出そうよということですね。仕事はいくらでも替えがきくからこそ、この順番じゃないと人はいつかやっていけなくなると思います。
この2つの大きな価値観を踏まえて、最初にお伝えしたような、全員が経営者と同じ情報を見ながら仕事ができる環境を作っていきたいです。自分が自分の役割を果たしていける、そんな組織を目指したいと思います。
−どうもありがとうございました!