実践的な組織づくり戦略や組織改善プラットフォーム「wevox」の活用方法を紹介する「活用事例シリーズ」。今回お話を伺ったのは、株式会社インタースペースの中山浩平さんです。入社5年目のとき、若干28歳で20人のチームを率いるマネージャーに就任した中山さんは、順調に事業を成長させていきます。しかし、その一方でwevoxのエンゲージメントスコアは低下を続けていました。こうした状況を打破すべく、チームづくりにも力を入れ始めた中山さんは、次第にマネジメントの楽しさに惹き込まれていきます。そして、「チーム力の向上が、ビジネスでの差別化において今後さらに重要になる」という貴重な気付きを得ることになりました。そんな中山さんの、1年にわたるチーム改善のプロセスをひも解きます!
スコアの低下をきっかけに、チームづくりに目覚める
―中山さんは最近、社外の人にひたすらマネジメント術を聞いて回っているそうですね。
はい、先月は10人くらいの他社のマネージャーや、人事の方に会って、いろいろとお話しさせていただきました。
―10人も! 自らの足でマネジメントのノウハウを吸収していくのはすごいです。
一次情報は、大事にしています。他社のマネージャーの実体験にもとづくチームビルディングの成功、失敗体験を聞くことが、自グループで何をするか、何をやらないかに繋がる良質なインプットになっているんです。
―そこまでの熱意を持ってチームづくりに取り組むなんて…まさに、マネージャーの鏡です。
いえいえ、うまくいかないことばかりです。もともとは個人実績を評価していただき昇格したため、実は、そこまでチームづくりには興味があるタイプではなかったんですよ。
―え、そうなんですか?
私は2年前に、広告を取り扱う事業部の営業部門のマネージャーになりました。このグループでは、様々なジャンルの企業に、掲載広告媒体の提案を行っていて、20人ほどのメンバーが在籍しています。
新卒入社なのでマネージャーは初めてで、就任当初はマネジメントって何をすればいいかよく分かっていませんでした。どちらかというと、組織のことよりも事業戦略を考えることが多く、市場成長に伴い業績も伸びていて、メンバーも成長していたので、それでいいのかなと思っていました。
―では、何がきっかけで、そこまでマネジメントに熱意を…。
大きなきっかけは、wevoxのスコアが落ちてきたことです。wevoxは、私がマネージャーになった後の2017年の12月から弊社に導入されていたのですが、毎月じわじわとスコアが落ちていました。最終的に、もともと70程度だった総合評価が半年ほど経った2018年の夏には64にまで落ちてしまい、至るところでメンバーとうまく噛み合っていない感覚が増していったのです。
スコアが落ちていることには当然気付いていました。ですので、途中から1on1を始めて、メンバーの意見を聞くようにしたのですが、最初の頃はスコアが低い項目にばかり目がいって良い効果を得られませんでした。
―どういうことでしょうか?
スコアを気にするようになると、どうしても悪いスコアを改善していこうという意識が生まれます。しかし、特定のスコアが悪かったとしても、その解決はメンバーが求めることではなかったり、解決したとしても組織推進に影響が小さい可能性があります。
その頃は「これって本当にメンバーや会社の推進のためになっているのかな…」と悩みましたね。今思えば、自分のチームの粗探しばかりをして場当たり的な対応になっていて、組織と個人のバランスを崩すような本末転倒の動きになっていました。
この気付きを得たのが1年ぐらい前。スコアも良くない時期で、予期せぬネガティブな離職が起きることもありました。なので、マネジメントに対する向き合い方を変え、チームづくりをもっと戦略的に行おうと自分の役割を変えていきました。
感覚的ではありますが、対内的なチームづくりと対外的な事業戦略推進を7:3ぐらいの割合で取り組もう、という意識を持つようにしたのです。戦略推進で頼れるメンバーがグループ内部にいたからこそできたことでもありますが、チームづくりで社外の人にいろいろと意見を聞きに行くようになったのも、この時期からですね。
私たちのチームは何を大事にしている?
―気付きを得て、意識だけでなく実際に行動に移しているのがすばらしいです。具体的にはどのようにチームづくりを行っていったのでしょうか?
実際にこの1年で行った施策は、大きく4つあります。
1つ目は「チームが大事にする軸の明確化」。軸がないまま悪いスコアに踊らされていた反省から、「このチームは何を大事にしているのか。今後何を大事にすべきな
そこで、1on1でのメンバーとの会話を洗い出していくと周囲のチームメンバーのことが人として好きであるという組織風土
組織によって、色々な特徴や、風土があると思いますが、これは、これまでの組織のプロセスによって自然と醸し出されたも
なので、それまで漠然と捉えていた人間関係を、組織が個人にできることは何かの観点で落とし込み細分化し、強みの人間関係が、個人活性化に繋がるような強い人間関係にした
①「人間関係」・・社内体制上、自己完結する仕事が少なく、また、状況によっては職種を越えて臨機応変にメンバー間でフォロ
②「支援」・・・経歴が浅いメンバーが多く、取引先から専門性を
③「承認」・・・個人のアイデアや仕事上の体験の発信を事業戦略
「何をやるか」は可変的であることに対して、「誰とやるか」は組織に所属する以上、選べないこともある中で、このベースの考え方はグループ内のチームリーダーとも共有し、重要度の意思の統一をしました。
―やみくもにスコアを追うのでなく、チームが大事にしていることを1つ決め、それに紐づくスコアを注視するようにしたのですね。2つ目の「wevoxで計測をするグルーピングの細分化」はどういうことでしょうか?
wevoxの計測結果を表示するグルーピングをより細かく設定し、いろいろなグルーピングで現状把握ができるようにしました。これまでは20人のグループで1つの計測結果だったのが、職種単位、入社年次、メンター(新入社員に1人ずつにつくメンターのこと)などいろいろなグループで分けて現状把握をするようにしたのです。
wevoxの回答への心理的安全を担保するため、個人の特定はできないようにしていますが、これにより、組織課題の把握がしやくなり、アクションもより細分化され具体的なものとなりました。
―確かに、グルーピング次第で、スコアの分析方法も変わってきますよね。
例えば、「人間関係」を基盤にしている私のグループの場合、社歴が短いメンバーで見た時に「支援」のスコアが想定より低い時
そこに対して、改善プランを立て実装することを積み重ねることで
この組織の部分的な課題は、大きいボトルネックになり得るにも関
チームリーダー同士が1つのチームに
―小さいように見えて、大きな工夫に思えます。3つ目の「アクション権限の委譲」について教えてください。
私の所属組織は、大きく3つの職種のメンバーが所属しておりそれぞれにチームリーダーがいます。もともとは、私がグループ全体の組織推進のアクションを行っていたのですが、3人のリーダーに各担当チームのwevoxスコアを開示し改善アクションを立案、実行してもらうようにしました。
例えば、それまで1on1やメンバーの目標設定は私だけが行っていましたが、各リーダーがそれぞれのチームメンバーと行うようにしたのです。これによって、チームづくりの主体者が私1人からチームリーダーを含めた4人に増え、当事者意識が大きく醸成されたと感じています。
―1on1って最近流行っていますが、みなさんすんなりできるようになりましたか?
いえ私自身も今も苦戦していて、いきなり1on1をやるのが難しいのは私も分かっていたので、人事部に協力してもらって研修を行いました。どういう目的でやるのか、どのような話をすればいいのか、といった内容を予めレクチャーしたのです。
実践を通してスキルは培われていくものですが、事前知識があるとないとでは本人たちの心理的ハードルも全然違うでしょうからね。また、グループとして人間関係を大事にしていることを背景に、メンバー間のコミュニケーション量を重視しているため、そのグループ方針のもと1on1を定期・継続実施することを全メンバーに私から周知しました。
―抜かりないですね。
弊社は人事が積極的にグループ、マネージャーのフォローをしてくれるので、安心して相談できました。人事と現場で対立している会社を多く見ますが、そういう人事と現場の協力体制のカルチャーを会社がつくっていくことも大事かもしれませんね。
―チームリーダーの3人の取り組みの様子はどうですか?
答えがないので手探りなところはありますが、主体性を持って動いてくれています。今では、自分の担当外のチームにどう好影響を与えるかなど、責任領域を超えた発言と行動が見られるようになりました。そういう機会が増えると、他のチームと比較して自チームを客観的に見ることができますし、好事例やアドバイスは適宜共有されます。
リーダー同士のフォローアップも生まれていて、成功体験、必要な失敗体験、チームを横断した斜め上からの支援の数は増えたなと感じています。
「we」を主語に考える価値観ワーク
―リーダー同士も1つのチームとして機能し始めているんですね。4つめのwevox value cardsについて教えてください。
これはつい最近行っているもので、相互理解をより深めようと1on1の場でカードを用いた価値観ワークを行っています。自己開示のため、私が予め選んだ5つの価値観を見せながら、相手にも価値観を選んでもらうというやり方です。その際に主語を「I」だけではなく「we」で考えてみようということを言っています。
(wevox values cardホームページより抜粋)
―どういう狙いがあるのでしょうか?
各メンバーは当然、個人的な「I」の価値観は持っています。その価値観を確かめ理解し合うのも大切ですが、別の主語で考えてほしいのが「自チームの価値観はなんだろう」ということです。主語を「we」にして価値観を選んでもらうことで、チームと自分のリンクしているところ、矛盾しているところに気付き、どうしたいか、どうあるべきかを考えることで、組織を自分事として考えるきっかけを提供したいと思っています。
そうやって選ばれた価値観はチームの戦略にも関わることもあります。例えばあるメンバーは「挑戦」という価値観を選んでいました。それをベースにチームの戦略を考えていくときに、どこで挑戦するのか、挑戦するにあたって十分なリソースは確保できているか、などの理想とギャップの埋め合わせや、詰め切れていないアイデアのブラッシュアップの視点を意識的に持つことができます。
―なるほど。漠然と考えるよりも、チームの価値観を意識して戦略を練るほうが納得感の高いものが生まれそうです。
はい、対外的で定量的な観点だけの戦略だとメンバーの納得を得られにくいですからね。会社のためだけではなく、自分のために働くという考えが社会的に広がっている中、対内的な価値観をベースに事業戦略を考えていくのは、組織推進において有効な視点だと思っています。
―これら4つの施策を続けてみて、効果は出てきていますか?
まず離職率は低下しました。wevoxスコアも右肩下がりであったのが試行錯誤しながら、右肩上がりになり、今では安定的に高いスコアを維持できるようになっていて、1回築いたエンゲージメントはなかなか崩れづらいということを実感しています。今は自分たちが大事にしたい軸をさらに強くしながら、どうやって組織推進の主体者をメンバーまで広げ、個人の能力アップを競合差別化に繋げるかを考えているところです。
こうして、強いチームをつくっていくことは競合差別化においても大きなメリットになっていくはずです。
これからのビジネスはチーム力で差がつく
―どういう意味でしょうか?
広告代理店という立場上、様々な規模、領域の企業と接するのですが、リソース不足や育成不備、人間関係のトラブルなどの組織課題が原因で事業がうまく進行しないケースが最近増えてきていると感じます。せっかく良い戦略を持ち、優れたプロダクトやサービスを持っているのに、競合他社に負ける前に社内問題で実行がままならない。そういう例が本当に多いのです。
働き方がここ数年で大きく変わり、会社と従業員の関係値が変わってきました。こうした中、適切な関係構築をし、会社とメンバーの架け橋になれるマネージャーが少ないのではと思っています。
特に以前よりも多くの会社が新規事業に力を入れている中、事業戦略だけでの差別化はどんどん難しくなっています。ということは、ビジネスで勝つためには良い戦略やサービスは前提としてありながらも、それを実行するチーム力が必要です。この2つが両輪となって、事業は成功するはずで、社会背景と自分が拾ってきた外部の一次情報の感覚から、チーム力の比重は上がっていると考えるようになりました。
―チームづくりに注力することで、中山さんの中でも視野が広がったのかもしれませんね。
そうですね。以前は事業戦略のことに思考が偏り、結果だけ出せばメンバーはついてくると思っていたけど、実は違った。そうした失敗を経験したからかもしれません。wevoxは組織改善ツールというよりも、その手前のチームづくりのきっかけを提供してくれるツールで、そのきっかけをアクションとして積み上げたのが今の状態です。こう振り返ると、使っていて良かったなと思います。
―ありがとうございます! 最後に中山さんのこれからのチームづくりの展望をお聞かせください。
私個人としては、ビジネスは社会に大きいインパクトを与えることが重要だと思っています。より大きなインパクトを打ち出せるように、チーム力を磨いて競合との差別化を図り、短期的ではなく長期的で継続的な成果を出せるチームにしていきたいです。
そのために、基盤としている「人間関係」の土台の上に、個人の強みをさらに高めていくようなメンバーの支援をしていきたいと思っています。チームは個人の集まりですから、一人ひとりが強くなれば全体的な力も底上げされる。一方で複数人が集うチームだからこそ生まれる、不必要なハレーションや縦割り意識が起きないような人間関係は前提としたいです。
理想は、各個人が相互支援をし合い、主体者を超越した主役感を持って顧客に価値提供するチームです。社会や市場環境の変化が激しい中、自分たちを中心に市場を大きくするという自負が持てるチームにしたいと思います。